このことは,ファジィ測度 μ を使うと,
従来の数学にも,集合に数値を対応させる測度という関数がありましたが,
これは 1+1 が 2 になる現象しか扱えませんでした.
測度 m では,A∩B=∅
のとき
最初の式は A と B の間に相乗作用または補完性があることと解釈できます. 2 番目の式は A と B の間に相殺作用または代替性があることと解釈でき, 3 番目の式は A と B の間には相互作用がないこと, または互いに独立であることと解 釈できます.
これまでの科学や工学では,長さや質量などの, 広がりに規定される物理的な量をおもに扱っていたので, 測度という加法的な道具だけで十分でしたが, 人間の行動や判断というあいまいな現象を扱おうとすると, ファジィ測度という非加法的な道具が必要になって来ます.
判断の例として, 紅茶 (t), コーヒー (c), 砂糖 (s) とそれらの組合せの主観的価値を ファジィ測度 μ で測ってみましょう. 紅茶でもコーヒーでもよいから, どちらかを飲みたいとします. 何もないことの価値はゼロですから μ(∅)=0 です. 何もないときに 紅茶をもらったときの嬉しさ は, 価値の増分 μ({t})−μ(∅) で測られます. 同様に, コーヒーだけしかないときに 紅茶をもらったときの嬉しさは μ({c, t})−μ({c}) です. これらを比べると, 前者の嬉しさの方が大きい ― どちらかが飲めればよいので後者はそれほど嬉しくない ― ので,
μ({t})−μ(∅) > μ({c, t})−μ({c})となり,
μ({c, t}) < μ({c})+μ({t})となります. コーヒーと紅茶は代替的なのです. 一方,コーヒーと砂糖については,
μ({c, s})−μ({c}) > μ({s})−μ(∅),すなわち
μ({c, s}) > μ({c})+μ({s})となることもわかるでしょう. コーヒーと砂糖は 補完的なのです.
ファジィ積分は,ファジィ測度によって単位当り量や重要度などが与えられて いるときに,量や価値を総合化するのに使います.陽平くんと郁生くんの例で は,二人が何時間か働いたときの総仕事が求められます.
ファジィ測度とファジィ積分は,加法的でない価値判断(評価)を 記述できるので,主観的評価の分析や支援に応用されています.評価分析への 応用には,核エネルギー使用に対する意識構造やカラー印刷画像評価の分析な どがあります.また,評価支援に関する研究には,非加法的重要度を用いた, AHP(階層化意思決定法)などがあり,具体的な応用には,テレビ番組総合 評価システム,工業製品のデザイン評価などがあります.
ファジィ測度は,この他にもデータベースやエキスパートシステムにおける不 確実な知識の表現や不確実推論に利用されています.
(室伏 俊明)